ごたんのおもちゃ箱

がちゃがちゃといろんな物が入っているおもちゃ箱です。手を突っ込んで取り出したときにたまに面白いおもちゃにあたったらいいかなって!たぶんゴミも入ってます。

【読書記録】『ヒトは「いじめ」をやめられない』

読書記録です。ダイジェスト+感想をまとめておきます。

 

ヒトは「いじめ」をやめられない
中野信子
小学館新書

 

第1章 いじめの快感~機能的歴史的観点から考える~

・ヒトは集団をつくることで生存してきた。現代人類は思考・共感・意思などをつかさどる「前頭前皮質」が発達していることがわかっている。

・社会的な集団をつくることで生きてきたヒトにとって、集団の中で最も脅威となるのは「フリーライダー」。フリーライダーとは協力行動をとらない人、ずるをする人をさす。

・その社会的な集団を適切に守るため、社会のために何かしようとする「向社会性」が高まってくる。しかし向社会性が高まりすぎてもよくない。例えば自分と違う人への敵対心などといった「排外感情の高まり」が起こり、また排除しなくてはいけないと考える「制裁行動=サンクション」が発動してしまう。

・サンクションが発動すべきではないのに発動してしまう「過剰な制裁=オーバーサンクション」がいじめの根底にある。

第2章 いじめにかかわる脳内物質
 ・いじめにかかわる脳内物質その1が「愛情ホルモン オキシトシン」。オキシトシンは相手への親近感や信頼感・安心感を生むホルモンであり、仲間意識が高まるきっかけを与える。しかしこれが度を過ぎると「良い仲間を選別しよう」という選別意識が高まることにもつながる。

・いじめにかかわる脳内物質その2が「安心ホルモン セロトニン」。セロトニンが不足すると不安になったり、うつになったりしてしまう。日本人は遺伝的に「セロトニントランスポーター」が少ないため、慎重で心配性、空気を読む傾向にある。

・いじめにかかわる脳内物質その3「快楽物質 ドーパミン」。間違っている人を正そうとすることには承認欲求や達成欲求が満たされる。その際にドーパミンが発せられ「正しいことをするのは楽しい」と体は覚えてしまう。

 

 

第3章 いじめの傾向を脳科学で分析
・いじめられやすい人の特徴は身体的弱者、空気が読めない人、1人だけ得をしているように見える人、異質な存在に感じる人。

・妬みの対象になるのが「類似性」と「獲得可能性」。「類似性」とは性別や職種、趣味などが自分とどれぐらいに通っているかということ。自分と同じぐらいの立場の人が自分より優れたものを手に入れていると悔しいという気持ちが起こる。「獲得可能性」は自分も得られるかも、という気持ちが妬みにつながりやすい。よって価値観や年齢・目的が自分と全く異なる人は妬みの対象にならない。

・学校というのは「類似性」をもった人たちの集まりともいえるので、妬みの感情は発生しやすいと考えられる。

・9~15歳は脳が生まれ変わるほどの大きな変化が起こる時期。「とにかくイライラする」といって攻撃性が高まるのはこの時期にテストステロンが増加するから。同時にそれらをブレーキする機能も育っていくが、成熟するのは30歳前後。適切にブレーキが利かず、いじめ行動が激化してしまうことも。

・5~6月や11月ごろはいじめが増えやすい時期。日照時間が減ることでセロトニンが不足し、不安感などが増す時期である。また学校行事がひと段落した段階でもあるため、目的を失った子どもたちが落ち着かなくなる時期でもある。

・男性は派閥をつくり、女性は集団をつくる。男性の制裁行動は過激化。力づくで制裁しようとする。女性は巧妙な制裁を行う。

サイコパスはいじめに参加しない。自分にとって利益のあることか、合理的なことであるかを判断するのでいじめに興味がないことが多い。

 

第4章 いじめの回避策

類似性を下げる。服装・外見・言動などにおいて「若さ」「女性らしさ」を出さない。

獲得可能性を下げる。「あの人にはかなわない」と思わせる。仕事等に対してプロ意識を持つ。

アンダードック効果を用いる。相手に自分の腹を見せる意味。自分の”負の部分”を見せる

・男性のクレームには「正直に対応する」、女性のクレームには「共感をしめす」のが有効的。

・学校でのいじめ対策として社会的報酬を与える。例えば係活動などの役割を与える。

まじめな組織ほどいじめが起こりやすい吹奏楽部はいじめが起こりやすいといわれている。また合唱コンクールの練習がうまくいかず学級崩壊が起こったという例もある。「合奏」「合唱」というのは規律性が高い行動なので、「フリーライダー」が目立ちやすくなる。

人間関係を薄めることも学校現場ではひとつの手段。結束力を高めようとすると、自分たちの集団の規律を破る人にサンクションが起こるきっかけになる。毎日席替えをするとか、授業ごとに習熟度などでクラス編成を変えるなどして、集団への帰属意識を低める。

・自分たちに従わない人を放置するという選択肢はない。仲間に取り込もうとするか、排除するかの2択。攻撃したい人の衝動を抑えることは無理なので、そのような人に遭遇してしまった場合は物理的に離れるしか方法はない。

・学校現場ではカメラの設置、第三者の介入などをして死角をつくらないことが大切。誰にも見られていない条件下では倫理的に正しくないことをする確率が上がる

 

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著者の中野さんはまえがきで「いじめを根絶しよう」という目標が事態を複雑にさせているのではないか、と書いています。いじめはないに越したことはないのですが、いじめはどこでも誰でも起こりうるものとして心構えしておき、また遭遇してしまったときに適切な行動がとれるようにしておいた方がいいんじゃないか、と私は思います。

 

私はまだ?子どもがいません。もし今後結婚して、子どもができて、その子が小学校に進学したらいじめられる・いじめる可能性が十分にあるわけです。もしかしたら両方とも経験する可能性さえあります。このとき親として適切な対応がとれるかどうか。この本の内容を知っているだけでもその糸口は見つかりそうだなと思いました。

 

この本は昨年の秋ごろに買って1回さらっと読みました。しかしこの数か月で新型コロナウイルスに関連して「自粛警察」と呼ばれる人が出てきたり、またSNSでの誹謗中傷が起こったり。「いじめ」と呼ばれる現象が多々メディアで取り上げるようになって再度読んでみたいと思い、手にとって次第です。

 

自粛警察は間違った人を正そうとする承認欲求、達成欲求でドーパミンが脳内にドバドバ出していたんだなぁ…とか。SNSで誹謗中傷する人もドーパミン出まくってるんだろうな、と考えることができました。そりゃ快感だと感じるのですから、やってしまうでしょうね。麻薬のようなもので常習性があるのかも。

 

この方の著作は他にも何冊か読んだことがあります。科学者が書く文章ですから、論文など引用し客観的なデータを用いて話が展開されるので、説得力があると感じます。

 

私も教育学部で学んでいたことがあるのですが、「教育はいままでの慣習などによりすぎ」と感じることがあります。あまり科学的でなく、非論理的な教育というか。いじめ対策にしても科学的な根拠があまりなく、先生個人の経験に基づいてしまう部分が大きいなと。なので、このような科学的な目線でいじめ対策などに乗り出してもいいんじゃないかなぁ。

 

またこの本では「泥棒洞窟実験」「青い目・茶色い目実験」「スタンフォード大学監獄実験」「ザ・サードウェーブ実験」といった人間のいじめ心理を知るヒントになるの実験がいくつか紹介されていました。このあたりももう少し深めて知りたいなと思います。